2位須田亜香里と1位松井珠理奈 ③【日本のアイドルに注目 (44)】
AKB48の選挙シングルのセンターと選抜メンバー
前回の続きです。AKB48の53rdシングル「センチメンタルトレイン」は2018年の総選挙の投票結果によって選ばれた16人の選抜メンバーによって唄われる、いわゆる選挙シングルです。16人の顔ぶれはもちろん立ち位置もその順位によって厳密に決められています。逆に言えばこの曲を唄うことができるように、よりセンターに近い位置に立つことができるように、ファンは必死でそのメンバーに投票をしたのです。メンバーはファンに投票してほしいと一生懸命訴えたのです。
投票結果はファンにとってもメンバーにとっても大変重要、最大限に尊重されなければなりません。そのため例年の選挙シングルは1位の人がセンター、2位の人と3位の人がセンターのちょっとうしろの左右、そのうしろの列に4位5位6位の人、あとは16位の人まで順番にピラミッド型の隊形を組んで唄います。センチメンタルトレインにおいても同様のことが予定されていました。
SKE48の気まぐれパンチラインとAKB48のセンチメンタルトレイン
ところがそのテレビ初披露の10日ほど前、SKE48の新曲「気まぐれパンチライン」のテレビ初披露直前にセンター松井珠理奈が休養することになって急きょセンターが須田亜香里に変更されたことはすでに書きました。休養がいつまでかは明示されず、ということはセンチメンタルトレインのセンターと選抜メンバーはどうなるんだ? とファンの誰もが思いました。
ただし気まぐれパンチラインのほうはSKE48の運営スタッフが会議してセンターおよび選抜メンバーを決めたものなので欠員が出たのであればまた運営スタッフが会議して対応策を検討すればいいのです。松井珠理奈のはずだったポジションに須田亜香里、須田亜香里のはずだったポジションにアンダーから1人補充、という対応でどうにかなります。
総選挙1位の人の代打を2位の人がつとめた形ですが、これは単純な繰上げではないみたいです。代打須田亜香里という対応になったのは、総選挙の順位がその理由の1つであることは言うまでもありませんが、踊りを覚えるのが速い点なども勘案してのことだったようです。ちなみに須田亜香里はSKE48の曲でもAKB48の曲でもそれまでにセンターを経験したことはありませんでした。
一方、センチメンタルトレインは選挙シングルです。ファンの投票によってセンターおよび選抜メンバーが決まったものです。それなのに、センターが急に休むことになったらどのような対応がありえたでしょうか。そして実際にどのような対応がとられたでしょうか。
TheMusicDay2018
AKB48の2018年の選挙シングル、センチメンタルトレインのテレビ初披露の日になりました。この日(7月7日)は日本テレビ系音楽番組「TheMusicDay2018~伝えたい歌~」にAKB48が出演することになっていて、生放送の出番は昼と夜の2回ありました。
実際にその番組を見てみるとまず昼の出番は総選挙順位とは無関係、48グループを代表するオールスターメンバーが出演していました。指原莉乃や柏木由紀、山本彩など総選挙に立候補しなかった人気者が勢ぞろいしてセンターは、総選挙の順位は25位だったものの“2万年に1人の美少女”といわれる小栗有以、過去の大ヒット曲恋するフォーチュンクッキーやフライングゲットを披露するなどで大いに盛りあがりました。もちろん須田亜香里もいました。宮脇咲良も荻野由佳も岡田奈々もいました。しかし、松井珠理奈はいませんでした。
1位松井珠理奈は今日も休みか? それとも夜はちゃんと出てくるのか?
昼の出番が終わったあと夜の出番までの間ネット上ではファンが大騒ぎしていました。夜は新曲披露のはずだが松井珠理奈は出るのか出ないのか、出ないならどうするんだ、様々な予想が語られていました。公式にはなんの発表もないのでたくさんの予想コメントを読みながら私もドキドキしていました。
もっとも多かった予想は「ファンをドキドキさせてハラハラさせるだけさせておいて結局は松井珠理奈がちゃんと出てきて、あぁ良かったってなってそれで終わり」というものでした。昼に出席しなかったのはむしろ盛りあげるための演出だろうとか、昼は恋するフォチュンクッキーも歌ったので指原莉乃のセンター曲のうしろに松井珠理奈がいるといかにも指原莉乃不出馬ゆえの1位って感じがするからイヤだったんだろうとか、なるべく宮脇咲良と接点を持たないようにという配慮だろうとか、信憑性がありそうでドキッとするようなことを書込んだ人もいました。
次に多かった予想は代打です。総選挙に立候補しなった人気者3人、指原莉乃、山本彩、柏木由紀のいずれかが代打で唄うんだろうという予想をする人はたくさんいました。その割合は5:4:1くらいでした。むしろ総選挙不出馬のあまり有名ではないメンバーに代打をやらせたほうがいいのではないかという予想もありました。
単純な繰上げという予想は意外に少なく、2位の人が1位のポジションに繰上がって3位の人が2位のポジションに・・・・・・ってことになると全員に影響が及びます。振付の先生が大変でしょうし、ましてやテレビ初披露、覚えたての振付を全員が変更されて生放送に出演するなんてミスのもとです。単純な繰上げを予想する人がいるとすぐにその危険性を指摘する人に反論されていました。
いよいよ夜の部、新曲発表の時間
日本テレビの音楽番組TheMusicDay2018、夜7時ちょっと前にいよいよAKB48の新曲「センチメンタルトレイン」が初披露されることとなりました。ファンの間でいろんな予想が出ていましたが私は、指原莉乃の代打センターを予想していました。昨年まで3年連続で計4回1位になったことがあり、かつメンバーで唯一劇場支配人という責任の重い肩書も持っていることがその根拠です。あくまでも急きょの代打である旨の説明が指原莉乃本人、または横山由依総監督、あるいは秋元康総合プロデューサーからあってそのあと全員で深くお辞儀をするなどしてから16人で唄うのだろう、と。
票数は愛
1位になるために約19万票、松井珠理奈に投票されました。15万票の須田亜香里も、14万票の宮脇咲良も1位になれませんでした。
どれだけたくさんのファンが松井珠理奈をセンターで唄わせるために投票したのか。どれだけたくさんの須田亜香里ファン宮脇咲良ファンが松井珠理奈に敗れて悔しい思いをしたのか。
投票はタダではありませんし、お金を払えば終わりというものでもありません。日本じゅうのCDショップで売切れ店続出になっていた投票権付きCDをどうにか探して見つけて買って、1枚1枚カバーのセロファンを剥がして中からシリアルナンバーの入った紙を出して、数字とアルファベットが混在したシリアルナンバーを1つ1つ間違わないようにパソコンかスマートフォンなどで打込む必要もあります。
かつて第3回の総選挙で大島優子が「私たちにとって票数というのは、みなさんの愛です」とスピーチで言っていましたが、あれは本当です。愛がなければ投票なんてお金だけでなく手間もかかることはできませんから。
その愛の結果によって順位が決まり、センターと選抜メンバーが決まっているのです。たとえ本当にやむを得ない事情による欠席であったとしても、その対応には誠意や最大級の慎重さが求められます。
そして、AKB48がとった対応はとても意外なものでした。予想した人は、少なくとも私が見ていたネット上の掲示板には、私も含めて1人もいませんでした。びっくりしました。
センチメンタルトレインのテレビ初披露
いよいよAKB48のセンチメンタルトレインがテレビ初披露されます。男性アナウンサーによるナレーションと総選挙のときの映像を使った説明のあと、画面が切替わりました。松井珠理奈はいませんでした。松井珠理奈が立っているはずのセンターの場所には、スタンドマイクと総選挙1位のトロフィーが置かれていました。
本人のかわりにスタンドマイクとトロフィー? って・・・・・・え?
松井珠理奈を除く15人でパフォーマンスが行われ、途中でちらっちらっと松井珠理奈の過去の映像がはさみこまれました。振付けもそこに松井珠理奈がいるかの如く、後列の人が前列の人の肩に手をのせるところは2列めの須田亜香里と宮脇咲良が、松井珠理奈の肩がそこにあるみたいに手をのばしていました。
過去の映像、いるかの如く、って・・・・・・死んだのか? そう思ったのは私だけではないでしょう。
かつてプロレスラーのジャイアント馬場が亡くなったとき、引退試合と銘打って行われた追悼興業(1999年5月12日東京ドーム)ではリング中央にジャイアント馬場の遺品である16文シューズが置かれ、それを見ながら超満員5万人のファンがジャイアント馬場のテーマ曲「王者の魂」を聴くというセレモニーが行われたことがありました。トロフィ-を見ながら曲を聴くという演出はこれに似ているように感じました。
曲やMVのクオリティの高さと須田亜香里のがんばり
念のため、もちろん松井珠理奈は生きています。センチメンタルトレインのテレビ初披露はこの演出でしたが、MVは復帰後に完成版を製作するとして未完成の状態で公開、松井珠理奈を前から写したショットは絵コンテになっていました。バックショットは後姿が松井珠理奈に似たタレントを起用しての実写でした。
しかもCDのジャケット写真は16分割されて15人の横顔写真と松井珠理奈のかわりの青空の写真という、まるで駅のホームにずらっとならんでいる広告看板の列で1ヵ所だけ広告主がついていない、ようなものになっていました。死んだのか? いいえ、くりかえしますが松井珠理奈は生きています。
センチメンタルトレイン自体は、歌詞が甘酸っぱい感じでミディアムポップの良曲、絵コンテを使ったMVもある意味斬新で悪くないなと私は思いました。CDジャケットの15人の横顔と1人だけ青空の写真を除けば、松井珠理奈ファンがどう思ったかもわかりませんが、曲もMVもアイドル好きの全般的な評判は悪くなかったみたいです。
曲やMVの出来の良さだけでなく、2位の須田亜香里もがんばりました。事実上の1位代理として歌番組ではAKB48グループ代表として司会者とのやりとり(かつては長く指原莉乃が担っていた仕事)をこなして、新曲プロモーションの活動もやりつつ、それと並行してテレビのバラエティ番組への出演など個人仕事も、睡眠時間が大幅に削られるほどの多忙だったみたいですがスケジュールに穴をあけることなくやり抜いていました。
その須田亜香里のがんばりの甲斐もあって、センチメンタルトレインのCDの売上は選挙シングルとしては過去最高の150万枚までのびました。センターの1位が不在で過去最高ってすごいですよね。次回も続けます。